あざぶの丘の取り組み
世界にさきがけた、ALL LEDの街
あざぶの丘の取り組み
1.100年後も住みたくなる街をつくりたかった
住宅地は従来の地形を生かした開発が心がけられている。また雨水はろ過池で浄化され、調整池と一体化した公園の水辺に再利用される。
LEDだけで街を照らすとどうなるか――。その答えは、愛知県三好町に造られた新しい街、「あざぶの丘」にあります。
名古屋市の西、自動車産業が盛んな西三河地域の丘陵に造成されたこの街の総面積は7.7ヘクタール。将来的には204戸の住宅が建ち並ぶ予定のこの住宅地は、街路や公園を照らすあかりをすべてLED化していることでも注目されています。
消費電力が蛍光灯の1/2程度、白熱電球の1/10程度ということもあり、LEDはディスプレイのバックライトや自動車・自転車用ライトなどととして普及が進んでいます。しかし、街のあかりすべてをLED化するのは、過去に例のない試み。それに加え、この住宅地では、開発前の地形を生かしたランドスケープデザインや豊富な植栽計画など、さまざまなかたちで環境との共生を目指す街づくりが進められています。
住宅地内の公園には、ソーラーパネル、風力発電機を設置。公園内の照明電力の約1/6を供給する。手前のモニターで発電量をリアルタイムで確認できる。※
「その背景には、長い時間をかけて資産価値が向上していく街づくりを行いたいという、われわれの狙いがあるんですよ」と、開発を手がけたトヨタすまいるライフの担当者はいいます。
この住宅地では、「2階の外壁はアイボリーホワイト系色彩とする」「敷地内には5メートル以上の木を1本以上、3.5メートル以上の木を2本以上植える」など、細かいルールが「街づくり協定」として設定されていますが、これも街の景観を保つことで資産価値向上につなげようという狙いがあってのこと。
「目指しているのは、開発から100年が過ぎても住みたいと思える、英国のような街づくり。ただし、協定には法的な拘束力はありません。それだけに街づくりに対する意識の高い方に、一人でも多く住んでいただきたいのです。そのような方々を呼び込むには、『環境共生』や『低炭素化』が今や不可欠なキーワードなのです」。
2.長く住んでもらう家を実現するには
住宅地を貫く緑道に向けて、各戸の勝手口が開かれる。ここは居住者の交流の場でもあるという。
複数の家が駐車スペースを共有化。昼間は広いフリースペースが生まれる。
建て替えによる環境負荷低減という観点から、近年、住まいの長寿命化の必要性が指摘されています。日本の住宅はこれまで、平均約30年で建て替えられてきました。生活文化の違いがあるとはいえ、100年前後の寿命をもつ欧米の住まいに比べ、これはあまりに短い年数です。
「しかし、住宅メーカー各社の取り組みにより、住宅本体の長寿命化はすでにある程度達成されています。長く住み続けてもらうには、やはり住み手の意識を変えていくことも必要だと思います。この街をつくるにあたっては、住まいの長寿命化に向け、宅地開発という部分でどのような貢献ができるのか、ということも考えています」。
そこから浮かび上がったのが、地域コミュニティづくりを促進するさまざまな仕掛けを用意することでした。「コミュニティを通して街への愛着を増すことが、住まいへの愛着へとつながり、ひいては長寿命化に必要なメンテナンスを実践することにもつながるのでは、と考えたのです」。
仕掛けの一例は、南北方向に長い住宅地の両端にある公園を結ぶ、大人2人がすれ違えるほどの幅の緑道。そこには、通りに沿って各戸の勝手口が開いています。その役割を担当者はこう説明します。「ここは子どもたちの安全な遊び場であるとともに、隣人があいさつを交わす場です。過去の開発事例をみても、このような緑道があることで自然発生的にコミュニティが形成されていきますね」。
複数の家が駐車スペースを共有することで、車が出払う昼間は広いフリースペースが生まれる。これもコミュニティ形成に向けた仕掛けのひとつ。さらに駐車場にはこれから普及が期待されるプラグインハイブリッド車充電用の専用コンセントも設置されている。「この地域では各世帯が2台以上の自動車を保有することが一般的ですが、2台目以降の用途は基本的に近隣でのお買い物用。そのような目的であれば、バッテリー充電のみで十分対応できるはずですから」。
3.LEDによって浮かび上がる街並み
夕暮れが迫る頃、屋外にあかりが灯りはじめました。その光は、LEDという言葉から連想されるギラついた光ではなく、温かみのある光。ただし風景から受ける印象は、これまでの街路灯とは大きく違います。一口にいうなら「上品」。その理由は、従来の街路灯が器具自体が輝くことで周辺を照らすのに対し、この住宅地の照明計画が光を建物や植栽、舗装面にあてることでその部分を輝かせる手法をとる点にあります。
「これは、LEDだからこそできることを追求した結果でもあるのです」と照明計画を担当した、照明デザイナーの落合勉さんはいいます。
全方向を照らす白熱電球や蛍光灯と違い、LEDによる光はほぼ一方向に進みます。そのため従来の街路灯の光源を単純にLEDに置き換えるのは難しいのが現実です。しかし光が一方向に進むという特徴を生かせば、間接光による照明計画が容易に実現できるというメリットが生まれるのです。
ただし強い光源が存在しないため、従来の街路灯に慣れた目にはちょっと暗く感じることも否めません。それに対し落合さんは「むしろ、これまでの街路灯が明るすぎるのでは」といいます。
「明るい光の中にいると、光が届く範囲の外側は人間の目には暗闇としか映りません。この街では、街全体が背景として浮かび上がる照明を実現したかったのです」。
これは、防犯という観点からも意味がある試みといえるかもしれません。従来の街路灯の場合、光源を背にして立つ人物の表情は読み取れませんが、間接光を主にしたこの街のあかりであれば、すれ違う人の表情がどの角度からも確認できるからです。
従来型の照明器具を使い、同様に街路の照明を行った場合のCO2排出量はおよそ42万トン。LEDを採用することにより、それを約10万トンに削減できたそうです。これは約72%の削減率になります。
調整池のある公園の木橋も、橋梁に埋め込まれたLEDによってライトアップされる。
地表近くに置かれたコンパクトなライト。その姿は、従来の照明のイメージとは大きく異なる。※
4.LEDの室内照明
玄関ホールに下がる照明器具も、壁面に直付けされた照明器具もLED。あたたかみを感じる光。※
住宅地のモデルハウスでは、LEDによる室内照明も体験できます。ここで重視したのも「LEDの特徴を生かすこと」だったと落合さんはいいます。 玄関を入ってまず目にとまるのは、吹き抜けの玄関ホールにさがる、パイプを束ねたような形状の照明器具。もちろん光源はLEDです。ちょっと不思議な形の照明ですが、コンパクトというLEDの特徴があればこそ可能になった造形です。
しかし室内灯としてのLEDの可能性は、それだけではありません。一例が横木に埋め込まれたフットライトです。横木とは、壁面の床に接する部分に取り付ける横長の木材のこと。これまではフットライトの設置には壁をくりぬく必要がありましたが、LED化により、一枚の木材のなかに照明器具を組み込むことが可能になったのです。
モデルハウスは、日差しを制御し、風を取り込むルーバーとしても利用可能なシャッターを備えるなど、住宅性能の面でもさまざまな工夫がされている。※
「また、LEDの省電力性に注目すれば、これまでになかった光の使い方もいろいろ考えられるはずです」とのこと。その具体例が、モデルハウスのカーテンボックスに埋め込まれたあかりです。
「室内で見ると部屋の輪郭を照らしだす柔らかいあかりですが、実はこれは防犯灯でもあるんですよ。家が無人のときにこのあかりを灯しておけば、屋外からは、家の中に人がいて部屋のあかりをつけているように見えるんです」。
これは、熱をほとんど発生しないLEDの特徴を生かした使い方ともいえるでしょう。カーテンボックス照明を一晩中点灯したとしても、1か月の電気代は100円程度。LED化により、室内照明の可能性はさまざまな方向に広がるのかもしれません。
5.メンテナンスへの取り組み
左隅のあんどん風の照明器具もLEDだ。フレームに埋め込まれたLEDの光を地場産の和紙にあてることでやわらかい光を実現している。※
住宅地の街開きは昨年10月。金融危機のタイミングに重なっただけに販売的には苦戦しているといいますが、地元テレビ局の取材があるなど、注目されています。
「ここで得た一番のものは、街づくりに対するわれわれの姿勢を多くの人に示せたこと。今後も売り急ぐことなく、当初の狙い通り、街の方向性に共感する方々への販売を進めていきたいと考えています」。
ちょっと暗いのでは――。販売担当者が当初そう危惧した照明も、住みはじめた人々からの評判は上々といいます。
とはいえLEDによる照明の普及には、大きな課題が存在します。それは既存の電気工事店では修理に対応できないこと。この住宅地の場合、LED製造を行うことができる会社の地元ということもあり、故障した場合も24時間以内の対応を実現していますが、全国展開を考えると、現状では必要なパーツを取り寄せるために数日以上の時間が必要になります。
LEDの寿命は約4万時間。1日10時間点灯したとしても、10年以上持つ計算になります。とはいえ、製造工程でのトラブルや強風、あるいはいたずらにより、寿命を待たずして故障することは十分あり得ると落合さんはいいます。
街路のあかりと、家々のあかりがミックスされることで、落ち着きのある夜景がつくられる。
「屋外照明の場合、すぐに修理できるという安心感が不可欠。現在は、ここで採用された照明器具の製品化を進めている段階ですが、当面は、中京地区限定発売ということになりそうです。ただしこの先数年で、状況は大きく変わると思いますよ」。
この街で夜、頭上を仰げば、晴天であればそこには美しい星空が広がっているはずです。これは、従来の街路灯のような強い光源が存在しないからこそ実現するもの。
LEDの導入により、この街はこれまでの住宅地にない夜景を手にしました。低炭素社会とより豊かな暮らし方は、実は十分に両立できるのです。
(取材・文:滝内康友 撮影:横田徹(※))

