F1レーサー時代、僕はセナやシューマッハといった強敵と戦い続けてきましたが、自分のイメージする成績が収められず、コンプレックスのようなものを抱きながら1997年に引退しました。その後、6歳から慣れ親しんでいた登山を再開、頂上に登ることで、F1で得られなかった何かをつかもうとしていたのかもしれません。しかし、いざ山登りを始めてみると、期待とは裏腹に思い描いていた世界とはまったく違う“現実”が待ち受けていました。
パキスタンのガッシャブルムという山に登ったときのこと。標高5000m地点にあるベースキャンプのテントで寝ていると、バタバタッ!っと、テントが大きな音を立て始めたのです。慌てて外へ出ると、その正体はなんと大粒の雨!視界を遮るほどの豪雨で、本当にびっくりしましたよ。周囲を見渡すと、いつもなら氷河になっているところを、泥流が勢いよく流れているんです。また、ラリーで砂漠を走行している途中にも、同じく豪雨に見舞われたことがありました。地元の人が言うには、50年に一度あるかないかの大雨とのこと。夏場、日本でもスコールのような集中豪雨が見られましたが、まさにあんな感じ。一方は標高 5000mの高山で、一方は草木も生えない砂漠地帯で……これは地球温暖化による異常気象なんだと、とっさに感じましたね。
この一件以来、僕の環境への見方はずいぶんと変わりました。現実を突きつけられることで、初めて温暖化を身近な危機としてリアルに考えられるようになったんです。この地球上で、今とんでもないことが起きているぞ…ってね。僕は、低炭素社会実現の鍵<ヒント>は、どれだけたくさんの人が温暖化現象を身近な危機として捉えられるかにあると思うんです。リアルに危機を感じ取ることができなければ、みんな行動しないでしょう?
今、起きている環境問題は、10年、20年、それ以上前にその原因があるわけです。でも、現在の繁栄は化石燃料の上に成り立っているわけですから、これまでの環境破壊はしょうがない部分もあったと考え、そこで得た経験をもとに、次どうするかが大切だと思います。悪いことばかりイメージしてもダメ。失敗や間違いを恐れずみんなで力を合わせれば、きっと良くなるはず。特に、2050年にこの問題と正面から向き合わなければならない、今の子どもたちには期待しているんです。手助けできることは、今から教育を通じて環境意識の高い子どもたちを育んでいくこと。そして将来、自分たちの思いを引き継いでくれる人たちが、できるだけたくさん育っていてほしい。それが、最近の僕の夢でもあるんです。
片山 右京
1963年、東京都生まれ。1983年にFJ1600デビュー後、全日本F3000、ル・マン24時間レースを経て、1997年までF1に参戦。1999 年にはル・マン24時間レースで総合2位に、2002年からはパリ・ダカにも出場するなど、日本のモータースポーツ界を牽引してきた。一方で、2002年にエベレストに挑戦するなど登山家としても積極活動。チーム・マイナス6%の一員であり、環境省の次世代自動車等導入促進事業アドバイザーも務める。
