ソウルオリンピックが行われた1988年頃は、まだ環境のことも今ほど騒がれていなくて、私も選手として意識が高いほうではなかったと思います。でも、現役を引退してイルカやクジラに会いに行く機会をいただいて、自分が地球に生かされていることを意識するようになったんです。それまでは、私ってオリンピックでメダルを獲ってすごい人間だと思っていたのに、海のなかにいると、なんとちっぽけで無力なことか(笑)。でも同時に、私はこの大自然のなかで生かされているんだ、「ありがたいなぁ」「地球にとって存在価値のある人間になりたいなぁ」って、心から思ったんですよね。そしてさらに、前にもこれと似たような経験をしたことがあったのを、このときふと思い出したんです。

それは現役時代、15年間の競技人生のなかで2度ほど味わったことがある感覚でした。なかでもある国際大会で感じた経験は今でもよく覚えています。競技中のことでした、体の中からエネルギーがどんどん湧き出てくるような、水と体が一体になるような、不思議な感覚にとらわれたのです。結果、自分でも驚くほどの演技で優勝することができたのですが、そのときも「ありがとう」「ごめんなさい」という気持ちがなぜかわからないけれど湧いてきて、心のなかが充実感でいっぱいになったのです。

スポーツを無心になってやって味わった「ありがとう」とか「生きているんだ」という感覚は、実は今の環境社会のなかで私たちが持つべき大切な感覚、感情なのではないでしょうか。その意味で、たとえばスポーツに一生懸命挑戦していた人たちは、感覚として“後世のために地球を守りたい”という思いを誰もが持っているのではないかと、私は想像します。そう考えるとスポーツが環境に貢献できることって、とても大きいですよね。

汗をかいた後に飲む水はやっぱりおいしいし、空気の匂いや味も全然違いますよね。目の前にある自然から自分がどれだけ多くのものを与えられているかを、スポーツはダイレクトに教えてくれますし、そういった実感があれば、具体的な温暖化防止のアクションを起こしやすいはず。誰でもスポーツを楽しむことができるように、低炭素社会に向けて誰もができることがあってそれは決して難しいことではありません。たとえば、今日から子どもとキャッチボールをしてみる。小さなことかもしれませんが、きっとそれが温暖化を食い止める大切な一歩となるのだと思いますよ。

小谷 実可子

1966年東京都生まれ。9歳からシンクロナイズドスイミングを始め、高校1年生で米国へシンクロ留学。1988年ソウル五輪では、ソロ及びデュエットで2つの銅メダルを獲得し、1992年に引退してからは、日本オリンピック委員会(JOC)理事・アスリート委員会委員長や、現在は東京オリンピック・パラリンピック招致委員会理事を務めるなど、スポーツのを務めるなど、スポーツの発展に貢献。またオリンピック関係の公務やシンクロ普及の傍ら、テレビのスポーツイベント解説、執筆活動、スポーツジャーナリストとしても幅広く活躍中。2児の母。
※なお、田園都市生活No.32では、小谷実可子さんが低炭素社会実現のヒントをご紹介しています。

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